私には、不思議な男である。こんな軽そうな男が総理大臣を1次、2次

合わせて4期にわたって、7年も続けているのである。最近まで1年か

2年足らずでころころと首相の顔が変わっていたのに、このままいけば

最長と言われる叔父の佐藤栄作政権の7年8か月をもしのぐのも確実

だ。


政治家としてはサラブレットなのは間違いないが、何を持って周りの人

間を引き付けるのだろう。いや、何を持って周りの人間たちは彼に引き

けられるのだろう。毛並みだけではない何かがあるはずだ。持って生ま

れたその天分はなんだろうか。


政治的には、何一つまとまった政策や成果が有るわけではない。スキャ

ンダルだらけであるにも関わらず、その座から引き下ろされずに地位を

保っているのだ。並みの政治家ならまず耐えられず、とっくにそこから

降りているか、政治生命すら危うくしているはずだ。


山口県、すなわち長州に生まれたことが関係しているか、長州は言わず

と知れた明治クーデターの主役の藩である。薩長同盟がなしたとはい

え、薩摩は大久保利通以後主導権を徐々に長州に握られていく。長州の

狡猾さしたたかさは吉田松陰を筆頭にして松下村塾生に続くものだ。


初代の内閣総理大臣は、長州の伊藤博文である。この男も不気味な男

で、開国に断固反対していた孝明天皇をひそかに殺害し、幼少の睦仁親

王を大室寅之祐なる人物とすり変えて明治帝に仕立て、長州閥の傀儡に

したという噂のある男だ。


いまだ噂の域を出ていない話ではあるが、何がなんでも自分たちのクー

デター政権を確立させなければならない、いわゆる明治の元勲たちの若

く血気に走った立場にしてみれば、ありそうな話ではある。


只、伊藤一人の仕業ではありえないから、長州連中に薩摩も一枚噛んで

たに違いないし、他藩の者もいただろう。


孝明天皇が崩御したのが 、1867年であるから伊藤はまだ26歳

だ。こんな若造に周到な大仕掛けが出来るとは考えにくい。シナリオを

持って先導する誰かがいたか、あるいは当時の社会が醸す雰囲気へ若気

のノリでやっただけだったのか。


何がなんでもクーデター政権を成立させたいのは、実は元勲たちではな

いのかもしれない。その裏に彼らを動かした表に出せない力が働いてい

たかもしれない。だが、話をそっちに向けるとずれてしまうので脇に置

いておこう。


ともあれ、明治クーデターは成功し明治政府は出来上がった。それは英

国政府とうり二つの舞台だ。最初の明治帝の服装も今出回ってる写真に

あるほどの立派なものでなくずいぶん貧相なものだったろう。とにかく

間に合わせの格好でも国体として納めた。


それからは、富国強兵を謳い侵略国家へと変貌し、朝鮮台湾への植民地

化侵略、日清日露の戦争そして満州国から日中戦争、最後っ屁の太平洋

戦争へと進み広島長崎への原爆投下で終戦を迎える。


満州国は知られている通り日本の傀儡国家で、そこで名を馳せたのが、

安倍晋三が最も尊敬しているといわれる岸信介だ。晋三の母方の祖父で

ある。


岸信介 昭和の妖怪と言われた。

岸は、満州国で財政を一手に仕切る地位にあ

り、日産の鮎川儀介、 松岡洋右、里見 甫や東

条英機も知己であった。テロリストの甘粕正

彦なんかも出てくるし、甘粕とスパイ仲間で画

家として有名な藤田嗣治も出てくる。



甘粕と藤田が岸と知己であったかどうかは知らないが、満州国と言うの

は物語的にみればほんとに多種多彩のストーリーとロマンに満ちている。


国家としては誠に胡散臭いもので、皇帝に就かされた元清国の愛新覚羅

溥儀もお飾りで日本の傀儡どもの巣窟である。英国から教わったか、英

国を見習ったか、満州国は中国へのアヘン密売で潤い、闇銭もあふれて

いた。


満州国政府、日本軍隊、特務機関などが裏でつながりアヘン売買の莫大

な闇銭を融通しあっていたのである。


岸は、満州国で自前の金も随分蓄えていてその資金を利用し、A級戦犯

を免れたともいわれているし、CIAの工作員としてコードネームも与え

られたとも言われている。政界に戻ってからは自民党の結党資金や選挙

資金をCIAから受けていたとも言われている。


東京裁判には 「先の戦争を侵略戦争というものもいるだろうけれど、

われわれとしては追い詰められて戦わざるを得なかったという考え方を

はっきり後世に残しておく必要がある」 と言う気持ちで臨んだとい

う。


「追い詰められて戦わざるを得なかった」のは何故か。


突き詰めれば、明治政府がそのような道を選んだからではなかったの

か。イギリスの真似して金持ちクラブに入ろうとして侵略国家になった

からではなかったのか。


吉田松陰の下で長州藩士や塾生が、欧米との不平等条約を知り、そ の

挽回に侵略国家を目指したことを 岸 は言わない。

それを

いったら オシメーダ! からだろう。


太平洋戦争の終戦は日本にとって、明治クーデター政府の終わりなので

ある。しかしそれを言わせないだけの布陣を長州閥は築いていた。


政界、教育界、思想界、宗教界、学会、マスコミ界、皇室なども巻き込

んで抜かりがない。しかも天皇皇室は戦争責任から、権力からはじかれ

て政治的には、手出し口出しできない。


安倍晋三はそのようなものを引き継いだのではないか。

大久保利通と所縁がある麻生太郎も境遇が似ている。二人には薩長同盟

が意識されているに違いない。


日本の大組織の支配層は、皇室や政財界ゆかりの者と大旨決まってい

る。新興の財閥とはすかさず政略結婚等でつながりを持ち、結束を作っ

てきた。


これらはエスタブリッシュメントが作ってきた巨大な壁である。安倍晋

三はこの壁の中で、自らを天皇と思ってるのかも知れない。



そしてそれに逆らうことなどできないほど調教された国民性が、

安倍晋三を守ってるに違いない。